「よくもまあ、飽きずにまたこの展開」 それは、勘右衛門の誰に向けたか分からないぼやきだった。 爆発音を聞いたが最後、目を開けると、毎回毎回懲りないとしか言いようが無い「異世界」。 「最近、流行だよねー。トリップ系」 「何、トリップ系って」 雷蔵の言葉に、八左ヱ門が首を傾げる。 「異世界に入り込んじゃう事」 「あー、良くあることだよなぁ」 雷蔵の言葉は二次元限定であって、生身の人間の話ではない。トリップがそうそう起こって、と言うより普通に生きている間はトリップすることは無いだろう。 「今回は、黒だな」 全員黒いスーツで身を包んでいる。兵助は自分の格好を見て周りの格好を見て、そう言った。 「映画か、それとも漫画か。小説かもしれないな」 海外の町並みに似た光景をぐりりと見回して、三郎が溜め息を一つ。 非日常と言う空間に慣れるのもどうかと思うが、確実に非日常に慣れてしまっていて、多少の事では驚かない。 それが、篠日術の生徒だ。 「黒だから、マフィアっぽいね」 雷蔵が某・ファーザーのテーマを口ずさむと、不意に。 「色々とすみません」 聞き覚えのある声がした。 「えーっと、これはまあ、また……」 画面を覗き込んだまま、昆奈門はうーんと唸る。 「けったいな設定ですね」 ぽち、ぽち、とボタンを押して行くと、本当にけったいな設定で、登場人物の叫び声が素敵に聞こえてきそうだった。 「可哀想に……」 目をしぱしぱさせながら、山本が目頭を摘んだ。そろそろ彼の目には限界が来ているのかもしれない。 「尊奈門、こっち来てー」 「それどころじゃ有りません! 今、四天王のリキチとの戦いが終わらないんです!」 必死に育てた子どもたちと戦っている尊奈門は元気だ。彼にあのゲームを任せて良かった、と心底思う。他の人間なら、体力的に無理だっただろう。 「じゃあ、しょうがないねえ。私達だけで頑張るしかないようだ」 プロローグが終わった画面を映し出したゲーム機をテーブルの上に置いて、適当な栄養ドリンクを飲む。そして、おにぎりを一つ食べた。謎の新発売おにぎり「フルーツ茶漬け蜂蜜入り」を何の躊躇いも無く食べる辺り、高坂も限界なのかもしれない。 「はいはい、じゃあ始めましょうかね」 スポーツドリンクを片手に、昆奈門は右肩をぐるりと回した。 「どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ言う事だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 ざっぱーん! そう男らしく波が押し寄せる港で叫んだのは、黒いスーツを身に纏った数馬だった。 「本当にどう言う事だ、だよね」 プロローグ、と言うものらしい話は無茶苦茶だった。 どこぞの町中にいるであろう五人に話しかけて来たのは、ぶすくれた顔の数馬で。その数馬が出てきた瞬間、目の前の風景が変わって、プロローグなるものが始まった。 主人公は数馬、であるらしい。 数馬は、自分達のファミリー……雷蔵の口ずさんだメロディーは何気に間違っていなかったのが悔やまれる、のファミリーのトップの娘である事が判明した。 そして、五人は何やら特殊能力を持っていて、それを駆使して、この町と言うよりこの島を守っていることも判明した。 だが、それはどうでも良い。そのトップが退くか何だかで決闘を行う事となり、優勝した人間が数馬の婿になって跡を継ぐ、と言う話になった瞬間。 ……数馬の蹴りが、そのトップの顎を捉えた。 一応、数馬は誰彼構わず蹴るような少女ではない。確かに篠日術と言う学校に通っているだけあって、他の女の子とは違う。だがしかし、初対面の人間に蹴りを食らわすような子ではない、筈だ。 そのトップが「か、は……」とそのまま倒れたので、場面は暗転した。そしてまた風景が変わり港にいるのである。 やはり、こう言う場面転換をすると言うことは何らかの物語である可能性が高い。 「すみません、取り乱しまして」 数馬がくるりと五人の方向を向くと、頭を下げた。 H26年 1月発行「青春☆狂想曲−乙女達の接続曲−」より一部抜粋。 戻る |