広がるのは、大海原!
 足元の砂がさらさらと流れていく。
 これで、着ている物が水着で浮き輪を持っていて、海水浴ひゃっはー! な状態ならどれだけ良かっただろう。
 だが、自分達の服を見れば、何か良く分からないひらひらとしたネクタイにベストにパンツにブーツと言う、童話の中ではモブ扱いの服だ。
 この世界には、一体どんな歪が起こっているというのだろう。
 それを正せばおそらく元の場所に戻れるだろう、多分。
 二年生は確かに物語を元に戻した。その後どうなったかは知らない。ただ、何もしないよりは何かした方が良いに決まっている。
「…ガリバー旅行記とかそこら辺かな」
 孫兵が海を見詰めてそう言った。
「十五少年漂流記かもよ」
 溜め息一つで藤内が零す。
 今現時点で、これが、おそらく何かの物語である事は分かっていた。だが、その物語がなんなのかは分からない。吸い込まれる時に、タイトルなど見ていなかった。
「とりあえず、第一村人でも探す?」
「そうだな」
 藤内の言葉に、作兵衛は三之助と左門の首根っこを掴んだまま首を縦に振る。こんな、右も左も何なのかさえ分からない世界にこの二人を放つのは危険だ。
 そうしていると。
 第一村人を、運良く発見できた。
 海を見詰め、何かに祈るような動きを見せてそうしてその場に祈る。
 漁師か何かと思いたいが、服装が煌びやかで機能性が無いのを見ると、貴族とか云たらとかそこら辺の人間に見えた。
 それでも、ここで初めて見つけた人だ。五人は砂を踏みしめて、その人間に近付いた。
 五人が近付くと、きゅっきゅと踏みしめる砂の音で気付いたらしく顔をあげる。そこには、金髪七三分けの瓶底眼鏡の男が、顔に見合わない絢爛豪華な衣装に身を包んで自分達を見ていた。
 その瞬間、逃げたい、と五人ともが思ったのを誰が止められるだろう。
 もういっそ、自分達の分からない言語を話して欲しい。そう思ったが、男は眉を寄せて五人を見ると。
「あの、」
 と口を開いた。

H25年 1月発行「青春☆狂想曲−語部達の遁走曲−」より一部抜粋。




戻る