「今日は野宿だな」
 光の国で揃えた簡易野宿セットを手にした文次郎が空を仰ぐ。
 時間的には探せばまだ宿がありそうだが、路銀が少ない。
 魔法が使える事が分かったが、それを補うアイテムも必要で、そして夢の国で衣装を買うのに路銀を使い果たしたに等しい。
「まあ、仕方ない」
 あの国でしか通用しない衣装だったが、売ってもその日一日の宿代くらいにしかならなかった。どうにも夢の国は物価が高すぎる。
 文次郎の言葉は最もだと仙蔵は頷いた。
「ここら辺なら、誰も文句は言わんだろう」
 目の前に広がるのは所々土が見えた痩せた土地。時期なれば草木が生えるのかもしれないが、荒地、と言うのが正しかった。
「じゃ、役割分担だね」
 ひょこりと伊作が文次郎と仙蔵の間から顔を覗かせると、にこりと笑う。
「楽しそうだな、お前」
「だって、こんな大人数でキャンプなんて楽しそうじゃない」
「キャンプじゃないって言ってるだろ!」
 伊作の後ろで数人の一年生の首根っこをひっ捕まえている留三郎が叫んだ。そんな留三郎の叫びを無視して小平太が見回りがてら辺りを一周して着たのか嬉しそうに駆け寄ると。
「私は火を起こしたい!」
 はいはいと楽しげに手を挙げた。
「火を起こすなら斉藤がいるだろう」
 最初は少なくとも人間だった。奇妙な場所に連れてこられただけの学生だった。だが、光の国で職業と武器を貰い、地の国でこの国の事を知り、そして夢の国でとうとう魔法が使えるようになってしまった。
「えー、木の棒とか使って火着けたい」
「だから、言ってるだろう。キャンプじゃない、野宿だ」
 簡易野宿セットには魔法がかけられているらしく、店で貰った解放の呪文を唱えるとぼむと言う音と共に寝袋と何か小さな石、そして少しの携帯食料が姿を見せた。
「ふむ、これが寝袋でこっちは何だ?」
「長次、分かるか?」
 これまた一年生を捕獲していた長次に声をかけて小さな石を見せると、流石に分からないらしく首を横に振る。
「うーん、これは後から考えるとして今は食料調達と薪調達かな」
 火をつけるにしても燃やすものがなければ意味が無い。そして、育ち盛りの子供達にこの食料はあんまりだ。
 伊作の言葉に文次郎は頷く。そして仙蔵を見ると。
「学年で動くか? それとも委員会で動くか?」
 そう尋ねた。

H24年 1月発行「青春☆狂想曲−勇者達の子守唄−」より一部抜粋。




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