教えて欲しいのは。





 あいつ等、どこ行きやがった…
 苦虫を噛み潰しながら、作兵衛は立ち上がる。
 今日は委員会の用事で早めに学校に来たのだけれど、それが徒となった。
 いつも連れてくる二人が揃って欠席。
 理由は簡単。
 ただの迷子だ。
 あの二人の迷子癖は予想を必ず上まる。
 修学旅行で気が付いたら逆方向に行く新幹線の窓に二人を見つけたとき、心臓が止まるかと思った。
 そんなレベルなので、迷子と言うより遭難が正しいのかもしれないが、ともかく二人は学校にたどり着けずにいる。
 探すのは作兵衛の役目だ。別にそんな苦労を買って出なくても良いのだが、作兵衛の探索能力は桁外れていて、二人の両親からヘルプが入ることも良くある。
 そんなこんなで立ち上がった作兵衛の耳に、いつもと違う感じのクラスメイト達の声。
 何かと思って首を傾げていると、飛び込んできたのは聞いたことのある言葉。
 蛇姫と藤姫って、確か…
 作兵衛は、なあ、と側にいた生徒に声を掛ける。
「何があったんだ?」
「富松君が次屋君と神崎君の心配している間に、校門のとこに……」
「すげぇの来てるぞ。制服が有名女子校の……」
「蛇姫と藤姫だ!」
 声をかけた女子生徒とは別の窓から弾かれたのであろう生徒達が、興奮してそう言った。
 確か、孫兵さんと藤内さん、だっけ。
 蛇姫、藤姫と呼ばれていた彼女達。
 とんでもない女子校のお嬢様で、ファンが多く近付くのもやっと、だとかホワイトデーの日に聞いた記憶がある。
 前にナンパされていたのも頷けるくらい美人の二人だ。
 それが、制服を着て何の変哲もない作兵衛の通う公立高校の校門に立っている……
 それ、まずくないか?
 作兵衛ははっとして鞄を持つと「あんがとな! 先に帰る!」と情報をくれた生徒たちに手を振って教室を後にした。
 絶対にやばい。まずい。
 階段を三段飛ばし、三段どころか踊り場まで一度に飛び降りるくらいの勢いで駆け降りると、靴箱にある自分の靴をひっつかんで素早く履いて校門まで一直線に走る。
 彼女たちのファンと言うより思いを寄せる男は、この学校にもいるだろう。
 そして、あの女子校の堅固な守りの中でなければ、そう言う輩は。
 ……やっぱり。
 自分の学校以外の輩もわらわらと。
 校門の一角を取り巻くように人垣が出来ていた。
 彼女達を守らねぇと!
 こんな時に限って、三之助と左門がいない。
 あの二人なら自分より上手くあの場所から彼女達を連れ出せるのに。
 それに、またあの子が。
 菫色の髪の優しいあの子。また転んでたら、本当に危ない。
 作兵衛は走っている勢いを利用して、人混みに突っ込んだ。
 おそらく、人混みの外枠は野次馬で、その中には良心的な男子や粘着質、ストーカー紛いと多種多様な人間で形成された厄介な壁がある。
「ちょ、通し……」
 言葉とはあまりに無力だ。
 どれだけ声を張り上げても届かない。
 男であるならば、女の子は守るもの。困らせたり泣かせたりするものじゃない。
 作兵衛は舌打ちをすると、多少の無礼は許されよと言わんばかりに、厄介な壁の上を……男子生徒の肩を踏んで飛び石のように移動した。
 そんな壁を作っている輩でも不文律が存在するのか、中核である女の子二人の周りには少しの空間。
 その空間に作兵衛は勢い良く飛び降りた。
 驚いたのは、彼女達で。
 ついでに壁を作っていた男たちで。
 そんな事知ったこっちゃないとばかりに顔をぱっと上げて、辺りを見回すと。
「二人だけか? あの子は?」
 強がっているけれど、明らかに不安そうな二人にそう声をかけた。
「こんなとこに来たらあぶねぇだろ? あの子がいるならどこに……」
 そう言った作兵衛の腕を、藤姫と呼ばれた少女が掴む。
「あ、あの……」
 それに驚いてると、今度は反対の腕を蛇姫と呼ばれた少女が掴んだ。
「とまつ、さくべえ、だよな?」
 自分の名を呼ぶので、そうだけど、と答えた後。
「俺より、あの子は?」
「数馬は、今日はいない」
「そうなのか?……良かった。じゃあ、転んでないんだな」
 いつも三人でいるイメージが強かった所為か二人というのには驚いたけれど、安全が確保されているならそれが一番良いに決まっている。
「ちょっと、話があるんですが構いませんか?」
「俺に?」
「じゃなきゃこんな面倒くさいとこまで来ないよ」
 作兵衛がくるりと目を丸くすると、二人は壁を作っている人間に。
「邪魔!」
 と言ってそのまま作兵衛をずるずると引きずり始めた。
 明日、俺、大丈夫かな……
 自分を見つめる奇異な視線に作兵衛は思わず自分の明日を考える。
 多少の嫌がらせは良いけれど、面倒くさいのに絡まれるのはなぁ……
 見れば所々に視線が怖い人間がいる。
 ま、とりあえずは。
 彼女達の話を聞いてから。
 そう思いながら、作兵衛はなすがままに引きずられていった。





「あのさ、もしかして三之助と左門が何かしたか?」
 二人に連れてこられたのは、カフェと言うより喫茶店。こじんまりとした店は、不思議な威圧感があって他を寄せ付けない感じがする。
 そこで頼んだのは、アイスコーヒーを三つ。
 良く来る場所なのか、初老のマスターは二人にはミルクポットを出さず、作兵衛にはシロップとミルクポットが必要かどうか聞いてきた。
 作兵衛は無糖でも構わないが、何となく糖分が欲しかったのでミルクポットだけ断り、二人からシロップを分けてもらう。
 そうして口から出た言葉は、自分が呼び出される可能性がある理由。
 それを聞いた二人は、きょとん、とした後。
「何で?」
 と声を揃えて言った。
「いや、あいつらさ……、人間としては面白いし良いヤツらなんだけど、ちょっと……相当……迷子なんだよな」
「迷子?」
 孫兵がぎゅむ、と眉間に皺を寄せると、藤内が「方向音痴…」と思い出したように言う。
 ナンパに絡まれた時に、相当な方向音痴だったような気がする。
「それもなんだけど、って言うか、笑えない話で今日も学校にたどり着いてないくらいだから……」
 作兵衛が遠い目をした。
 毎日通う学校にたどり着けない程の方向音痴など想像が出来ない。
「で、そっちの学校に行ったかなあと」
 頼むから、反応してくれるか?
 作兵衛の困った笑い声に、二人は意味もなくこくこくと頷く。
「……やっぱり、行ったか?」
「いや、来てないけど……」
 孫兵の言葉に作兵衛は、良かった、とこぼしてから。
「方向音痴だけじゃなくて、あいつら、思考も迷子だから。迷子って言うより迷宮なんだけど」
「迷宮?」
「左門、背の小さい方な。あいつは決断力が有りすぎてとんでもない行動に出るし。三之助、は背の大きい方で、あいつ何もかもが無自覚で……天然通り越して直感のままに生きてるから、うん……」
 作兵衛の言葉は分からなくはない。
 何度も助けてくれたのは、真っ直ぐな左門の言葉で行動で。
 行動が読めない上に何もかも斜め上に行っていた三之助。
 二人が、何の打算もなく、良く分からない女子校のブランドと自分達の別の名前なんて関係なく、接してきたのだと分かる。
 孫兵は認めたくないようだけれど。
「あれ、でも……」
 二人が原因でないのなら、作兵衛がこの二人に呼び出される理由が分からない。
「俺に用って……何?」
 その時、作兵衛という人間も大概思考が迷子だなあと二人は思った。
 勝手に危惧して、勝手に推測して。随分と考え込みやすい性格のようだ。
「数馬」
「え?」
「数馬。数馬のこと」
「数馬って……あの子?」
 ここにはいない、菫色の髪の少女。
 作兵衛が二人の身の安全より考えてしまった少女。
「えっと、迷子?」
「何で数馬が迷子になるんだよ」
「いや、何て言うか、迷子が出たらまず俺に声がかかるから、つい……」
 この人、苦労してるんだなぁ。
 藤内はそう思った。
 それはおそらく孫兵も同じで。
「数馬は迷子になってないし。ちょっと聞きたかったのは……」
 孫兵がちらりと藤内を見た。
「俺たち三人の中で、誰が一番可愛いと思った?」
「へ?」
 藤内の一人称が、私から俺に替わっている。
 それだけ、藤内は本気なのだ。
「お、女の子は比べるもんじゃねぇだろ!」
 突然の質問に、作兵衛は焦る。
「そんなの綺麗ごとだよ。優劣の無いものなんて世の中には存在しない」
 孫兵が面白くなさそうに腕を組んだ。
「価値なんて人それぞれだけど、人間の中には基本的に優劣を付ける本能があるんだ。で、とまつさくべえとして、僕たち三人の中で誰が可愛いと思ったかが聞きたい」
 数馬が泣いた。
 可愛くなりたいと。
 自分達より可愛いと思ってもらいたいと。
 こんな事、一度もなかったのに。
 孫兵から見れば、正直可愛さで言えば数馬が一番だと思う。
 自分の外見は確かに悪くないだろう。だがしかし、性格は最悪だ。
 藤内も外見は可愛いし中身は少女趣味だが、熱血漢で喧嘩っ早い。
 自分達は外見と中身がちぐはぐなのだ。
 けれど、数馬は違う。
 自分達が側にいても、拗ねる事無く僻むことなく。
 真っ直ぐで優しい女の子。
 正義感は強いし、決めたことはやり遂げる
強い意志を持っている。
 自分達から見て、数馬は他に無いくらい可愛い女の子なのだ。
 数馬のように難解な髪型をする事は出来ないし、料理もそこまで上手じゃない。
 女子力の高さは、自分達より遙かに上だ。
 それを、外見だけで判断する輩は気が付かない。
 でも、目の前の男子は違った。
 それを、確認したい。それだけなのだ。
「……まあ、可愛いって言うなら、あの子かな……」
「ホントに?」
「ホントにって……、三人の比べるとこが違うだろ」
 作兵衛は、頬を人差し指で掻くと。
「孫兵さん、だっけ? 可愛いって物差しじゃあんたは計れないし。藤内さんは、綺麗って物差しじゃ計れないし。それにあの子……数馬さんを計るのに二人と比べるのは違うと思う」
 上手く言えないけど、と付け加えて。
「その、何だ、優劣って言うより……孫兵さんは格好よいと思うし、藤内さんは男前だと思うし、数馬さんは可愛いと思う、って言うカテゴリ? かな?」
 男子の口から初めて聞いたほめ言葉だった。
「僕が、格好よい?」
「え、だって、すげぇなって。いっつも思ってた」
 女の子達を守るその姿。
 自分の身も省みず、大事な友達を守ろうとする姿。
「姫って言われて、ん? って思ったのは姫って言うより王子様って感じかなと」
 孫兵は王子様だからね。
 自分の事を王子様と言ったのは、二人目。
「それに、藤内さん」
「え、俺?」
「そう。可愛いなって思うけど、一本気通ってるというか男気があるって言うか。何て言うか、侍っぽい」
 藤内は時代錯誤な侍みたいな事言うよね。
 藤内を侍だと言ったのは、二人目。
「で、数馬さんは、すごく女の子だなって。色んな意味で、だけど。ああ言う難解な髪型がすげぇなって思うし、それに、友達がすごく大事って言うとことか」
 女の子って可愛いって事だろ?
 作兵衛は迷いながらも言葉を選んで二人にそう言った。
 少しの沈黙。
 孫兵は持っていた鞄の中からメモ帳を取り出し引きちぎると、そこに何やらさらさらと走り書きをする。
「ん」
「?」
「携帯の番号とアドレス。あと、孫兵、で良い」
「へ?」
「あ、じゃあ、俺も!」
 藤内も孫兵が書いたメモ用紙の裏に、自分の個人情報を書く。
 それを見た作兵衛は首を振ってそれを二人に返した。
「何で?」
「……俺がそれをもらう権利はないし」
「どう言う意味?」
「二人の名前とか情報とかって、すげぇ大事なもんなんだろ。そんなものもらえない」
 少なくとも、自分がもらって良いものではない。
 その言葉に孫兵は片眉をつり上げて。
「大事かどうかは僕たち自身が決めるけど?」
「えっと……、うん、俺にも友情というものがあってだな」
 三之助と左門より先に彼女たちの名前と連絡先を知るわけには行かない。
 そんな作兵衛に。
「じゃあ、緊急時用に持っててくれれば良いから」
「緊急時……?」
「その、さもんさんと……えーと、」
「軟膏男」
「あ、その節は……その、二人がとんでもないものを……」
 孫兵の言っているのはおそらく三之助で。
 軟膏のインパクトは相当なものだっただろう。
「それは良いけど。あの二人を探す時にでも使ってくれれば良いから」
 それから、と繋げて。
「僕の名前は、伊賀崎孫兵」
「俺の名前は、浦風藤内」
 二人が名乗った事にきょとん、とした後。
「あ、俺は、富松作兵衛、です」
 作兵衛は自分の名前を名乗った。
 手に入れたのは、大事な友達の王子様の名前。
 そして。
「こっちも、渡しておくけど」
 作兵衛は鞄の中のノートを引きちぎって、個人情報を書き込む。
「数馬さんには、教えないでくれるか?」
「え?」
「女の子の連絡先を別の人間から聞くのは失礼だから、自分で聞きに行きてぇんだ」
 全く、本当に、こいつは!
 むずむずとするくらい、本当に王子様だ。
 見かけは、ちょっと怖いくらいの外見なのに中身は、女の子が夢見るような王子様。
「……あと、男の連絡先なんていらないと思うけど」
 そう良いながら、作兵衛は自分の連絡先の裏に問題児二人の名前を連ねる。
「あの二人の名前と連絡先。ああ見えて、わりと役に立つから」
「……どんな?」
 孫兵が思わず疑問を口にした。
「孫兵さんに軟膏渡した方は、身のこなしが軽いから。何か妙なのに絡まれたら呼び出しても良いし。力仕事すげぇ得意なんだよ。こないだも歩けなくなった婆さんを三キロくらい先の病院までおんぶして連れて行ったくらいだから」
「自分の?」
「いや、知らない婆さん」
 普通なら浮かばない光景だが、あの男なら普通に浮かぶのが何とも。
 孫兵は自分の豊かな想像力に顔をしかめる。
「それに、藤内さんとアイスの交換した方は、記憶力がものすごい良くてな……あと兵法だとか難しい事も良く知ってる。どうでも良いことも知ってるから、その婆さんの様子を見て病院決めたのあいつだし」
「すごいですね」
「ああ、あいつ何か、記憶力の引きだしってヤツがハンパないみたいで」
 そして。
「その二人を誘導して病院に連れていったのは、富松作兵衛、だろう?」
 孫兵がそう言うと、どうして分かった、と作兵衛は目を丸くした。
 分からないわけがない。
 どうにも、自分達と関わりのある三人は、上手くバランスが取れた見事な三人組らしい。
「そう言うわけだから。気兼ね無く頼めば良いと思う……あいつら、嫌がらせとか全く気にしないタイプだから」
「え……」
「何か、三人が一緒にいるってそう言うことなんじゃねぇのかなって。下手な人間が一緒だと、色々大変だろう?」
 ……からり、とアイスコーヒーの中の氷が音を立てた。
 自分達は良い。どんなのものに絡まれても、自己責任でどうにかする。
 けれど、それが自分達以外に及んだら。
 そう思うと、仲の良い友達なんて作れなかった。
 幼い頃から妙なものと縁がある孫兵はそれが顕著で、藤内もまた田舎からこちらに出てきてそれを思い知っている。
 だからこそ、数馬と言う友人が大切で大好きで。
 同じ悩みを持っている孫兵と藤内にとっては、本当に大事な女の子。
 自分達を特別視しない、何があってもへこたれない、大事な女の子。
 あの学校で出会って、戸惑うばかりの自分達を保健室に匿ってくれた、尖晶石の乙女。
「……新学期に、櫻会って言うのがあるんだ……」
 藤内がぽつりとこぼす。
「俺たち、最上級生になるから……それを運営する側に回るんだけど、その時外部からの応援を呼んで良いことになってて……」
 自分の為、じゃなくて数馬に笑って欲しいから。
「その時、頼んで良いかな?」
「三之助の方? それとも左門?」
「三人」
 孫兵が唐突にそう言う。
「へ……? 俺? 何も出来ないけど……?」
 そうは思えないが、謙遜しているようにも見えない。
「嫌なのか?」
「嫌じゃないけど、多分、俺たち女装しても直ぐバレると……」
「女装?」
「え、だって、女子校って男子禁制なんだろ。だったら……」
 その一言に、孫兵と藤内は思わず吹き出した。
「基本的に男子禁制だけど、外部から来る人間に女装しろなんてルールは無いよ」
「そうなのか?」
「むしろ、それをした方が出入り禁止になる気がする」
 本当に面白い思考の持ち主だ。
 女子高に招待されて入ると言うのに、女装なんて。
「連絡は……えーっと……」
「当日にうちの学校まで来てくれれば良いから。その時に」
「その時に?」
 藤内は何かを良いかけて、そのまま黙り込む。
 数馬の姿を見て欲しい、とは言えなかった。
 姫と乙女は櫻会では特別な意味を持つ。
 現在生存している人間で、乙女の名を持っているのは数馬だけだ。
「何でもない……」
 ぷるり、とマナーモードにしていた携帯が揺れた。
 何だろうと孫兵が確認すると。
「……、あのさ」
「ん?」
「そっちの迷子、数馬が確保したっぽい……」
 文面から伝わってくる数馬の動揺。
「へ?」
「いや、無事に送り届けたって……」
「どこに?」
「学校に」
「あのバカ達……!」
 作兵衛はがたっと立ち上がって、千円を一枚テーブルの上に置くと。
「それで足りなかったら、立て替えといてくれ!」
 そう言って、マスターに美味しかったですと会釈すると店を飛び出した。
「…………」
 残されたのは、孫兵と藤内で。
「……面白い人だったね」
「かなりね。で、どうする、これ」
 三人の連絡先が書いた紙。
 孫兵は摘んで持ち上げると。
「ま、とりあえず……保留、かな」
 そう言って、藤内の鞄の中の手帳に挟み込んだ。
 出来るなら、本人から聞きたい連絡先。
 それは、きっと数馬も同じで。
「さて、じゃあ僕らも数馬を拾って帰ろうか」
「そうだね」
 残ったアイスコーヒーを飲み干して、二人は立ち上がる。
 元々男子が苦手な数馬が頑張ったのだから、甘いものでも食べながら話を聞いてやりたい。
 全く、今日は驚くことばかりだ。
 数馬の王子様は思った以上に王子様で、そして面白くて。
 数馬は数馬で頑張っていて。
「櫻会、頑張ろうね」
 藤内の言葉に、孫兵はこくりと頷いた。





 王子様の名前を、大事な友達に。
 それだけの気持ちが、勇気をくれた。


 友達の好きな人は
 不器用で無意識な王子様だったから。


 彼女が、笑ってくれる気がした。   







王子様の名前










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