君達は、僕らの大事な大事な。








「は? またですか…」
 半助は溜息混じりにそう言う。その言葉に学園長は笑いながら「流石にい組やろ組にはのう」と茶を啜りながら返した。
「土井先生、またですかとは何ですか」
「だって山田先生、二人目ですよ?」
「落ち着きなさい。まだ二人目じゃないですか」
 ずっと伝蔵は茶を啜って、ちろりと半助を見る。
「団蔵は特例だと思ってたんですがねぇ…」
「今度来る皆本金吾だって特例でしょうが。文句なら連れて帰ってきた戸部先生に言いなさい」
 一年は組は、特例で女の子を一人、男として預かっていた。
 それは、忍術学園が信頼している馬借の親方からの頼みだった。
 娘を一人、息子として預かって欲しい、と。
 加藤村の馬借の親方、加藤飛蔵には一人娘がいる。名を「団蔵」と言う。男名前なのは、病弱な子供を良くないものから守る為の魔除の一つで、実際団蔵はとても病弱な子供だった。母親を早くに亡くしたが、父親と馬借衆が育てて来たお陰か、性格は大変明るく豪快で名前の通り男らしく育っていた。病弱、と言う点を除いては。
 その団蔵が、少しでも強い子供になるようにと飛蔵は学園長に頼み、忍術学園に「男」として通わせたいと言ったのだ。
 それを快諾したのは、学園長。自分で面倒見ないから良いと思って…とは半助の言葉だ。
 女の子を一人だけ男として教えるのは難しいのではないか。それを心配して胃を痛めていた半助だったが、入学して団蔵を見てみると不安は吹っ飛んだ。
 団蔵は、男の子、そのものだったからだ。
 女の子らしさが全く無い女の子といった方が正しいだろうか。学園長に挨拶に来た団蔵は、袴を履かない馬借姿で女の子と言う方が信じられなかったほどだ。
 生徒達には黙っているが、団蔵は間違いなく女の子で、この学園に通っている。
 半助や伝蔵も漸く慣れてきたところに、もう一人の女の子の話題。
 学園の剣術師範の戸部が拾ってきた女の子。名を「金吾」と言う。
 その生来の泣き虫で甘えん坊な性格を直す為、父親の考えで敵討の旅に出ていた女の子だ。縁あって乱太郎達と知り合い、数日前戸部が連れてきて、めでたいのかめでたくないのかわからないが、忍術学園に途中入学と言う形を取る事になったのだ。
 金吾の父親、武衛に頼まれたのもあった。
 武衛は相模の地方の侍で、金吾は一人娘になる。金吾もまた母親を早くに亡くし、武衛が育てていた。だが、諸事情により手元に金吾を置いておくわけにもいかず、また、その性格を直したいと言う事もあり、敵討と称して男装させ旅に出したのだ。
 そして、全てを金吾に話した後も、まだ手元で育てられず学園長に頼み込んだ事で途中人学が許されたのである。
 そして、金吾もまた女の子と信じるには無理だろうと言う女の子だった。ずっと一人で旅をしていた所為か男の子である事になんの違和感も感じない。突然着物を着せて女の子ですと言った方が無理があるだろう。
「全員女の子じゃないんですから、そんなに慌てなさんな。土井先生」
「全員女の子なら山本先生に頼んでますよ」
 確かに、この学園にはくのいち教室がある。行儀作法を習う為に通っている女の子たちが居るが、中には本当にくのいちになりたいと思い通っている女の子たちも居る。
 そこに入学させたく無かったのは、父親達のたっての願いだ。
「部屋は、団蔵と一緒にさせた方がいいんでしょうか…」
「いや、出身が相模なら喜三太と一緒の方がいいんじゃないんですかね。程よい緊張感もあるでしょうし」
「喜三太、ですか…」
 頭が痛い、と半助は額を押さえる。
 団蔵を一人部屋にしなかったのは、緊張感を持たせる為だ。一人では、どんな事で女の子らしい仕草が出てしまうか分からない。そう思って、加藤村とも交流のある佐武衆の跡取りである虎若と同じ部屋にしたのだ。そんな心配が要らない程団蔵はどこまでも男の子なのだが。
 金吾もそれには慣れているだろうが、相手は喜三太。喜三太は優しい性格で同じ相模の出身と来ている。同じ部屋の人間としては好都合だ。
 だが。
「女の子ってなめくじ大丈夫なんですかね…」
「………そこは慣れてもらうしか」
 喜三太の最大の難点。それは、なめくじが大好きだと言う事。いつも手にしているなめくじが入った壺には、大量のなめくじがいて、それを外に出して散歩させたりととんでもない状況だ。
 それを女の子である金吾が慣れられるのかと言うのは分からないけれど。
「仕方ないですかね…」
 冷めた茶を啜って、半助は溜息を一つ。
 これでまた心配事が一つ増えた、と思っていたのは伝蔵も同じ事。
 これから六年間。育っていく二人の女の子とは組の個性の強すぎる面々を思い出して、二人は無言で茶を啜った。





「先生!」
 すぱーん、と戸を開けたのは学級委員長の庄左ヱ門。また何かやらかしたのかと半助と伝蔵が視線をやると、後ろからわらわらとは組の子供達がやって来た。
「どうした、お前ら」
「団蔵を止めてください!」
「あと、金吾も!」
「あの二人が何やらかしたんだ?」
「同じお風呂に入ろうとするんです!」
 ああ、それは全くをもって困った事態ですね。
 金吾が途中入学して、ちょっと。
 団蔵と金吾が女の子である、と言う事実がは組の子供達にばれてしまった。
 理由を作ったのは、誰であろう学園長なので文句は言えない。
 一年は組の教室を覗いた学園長が、は組の面々と何食わぬ顔で着替えをしていた団蔵と金吾に詰め寄り、「女の子なんだから別の場所で着替えなさい!」とぷんすか怒ったのだ。
 半助と伝蔵の苦労が水の泡になった瞬間である。
 それから、は組の子供達に絶対に秘密、と言う条件で話をした。
 だが、誰も信じようとしなかったのは、は組らしい。団蔵と金吾が女の子なら虎若だって女の子だと思います、と言う庄左ヱ門の冷静な言葉は今や伝説だ。
 そんなは組の前で着ていたものを、もちろん褌含めて脱ごうとした団蔵と金吾もある意味伝説である。
 それからと言うもの、は組の子供達は女の子なんだ! と意識するようになったが二人にそんな素振りは無い。父親達が見たら「育て方間違えた」と思うだろう。せめてもう少し年齢が行けば自覚するのかもしれないが、この年頃の子供は男の子でも女の子でもそう変わらない。
「もういっそお風呂に入ってやればいいんじゃないか?」
 半助は諦めていた。そして、また伝蔵も諦めていた。
「え、いいの?」
「駄目だよ、喜三太!」
 喜三太の言葉に、伊助がぷりぷりと怒る。
 この一週間ほど、一緒にお風呂に入らないと言う目標を掲げたは組の良い子たちだが、それもどうやら挫折しそうな勢いで団蔵と金吾が一緒に入りたがるらしい。
 学園一忍者忍者している長を持つ熱血委員会所属の団蔵と、名前の通り体育会系の委員会に所属する金吾に力技で持ち込まれたら、勝てるものなど居ないだろう。
「だって、お姫様ですよ! 大事にしないと」
 それは、半助が言った言葉。随分と乙女思考ですなと伝蔵は笑ったけれど、否定はしなかった。
 あのな、団蔵と金吾はは組のお姫様なんだ。だから大事にしないといけないんだぞ?
 まだ、男女の差なんて分からない子供達に行って聞かせる為に、言った言葉。
 は組のお姫様。
 他の組にはいない、大事な大事なお姫様。
 だから、お前達がずっと守ってやるんだぞ。
 とてもではないが、お姫様と言う言葉からかけ離れているふたりだが、それでも大事な女の子であるには変わりは無い。
 仲間と言う意味で、だが。
 きっと成長していく内に、その力の差が出てくるだろう。その時、守ってやれるのは秘密を知っているは組の子供達だけなのだから。
 団蔵も金吾も馬借がいいです! 武士がいいです! と挙手したが、きらきらした瞳の子供達には勝てずその時は黙ってしまった。
「ともかく、お前達は一度部屋に戻りなさい。団蔵と金吾には話をするから。風呂の順番まであるんだろう?」
「はい……」
「まあ、今日のところは諦めて一緒に風呂に入りなさい。そんな泥だらけじゃ廊下どころか布団まで汚す羽目になるぞ」
「………」
 混浴を勧める教師など以ての外だが、団蔵と金吾にいたっては例外である。
 半助と伝蔵の顔をちらりと見て、は組の子供達はしょぼしょぼと部屋を後にした。
 それを見送った二人は顔を見合わせて。
「あの子達にとっては本当にお姫様なんですねぇ…」
「他に女の子が周りにくのいちしかいませんからな。女の子ってだけで特別なんでしょう」
 ちょっと普通と違う女の子なのに、誰よりも女の子だと思っている可愛い教え子達の顔を浮かべて、なんとも言えない笑みを浮かべた。





 君達が、困っているなら
 君達が、悲しんでいるなら
 君達が、泣いているなら
 ぜったい、ぜったい、たすけてあげる。
 
 だから、ぼくらをこまらせないで?


 大事な大事な








ぼくたちのおひめさま










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捏造大好きわふーの私でごめんなさい。
団蔵と金吾は母親がいない設定で行こうと思います。
それよりお姫様ってぷふーってなったのは誰でもない私です。
でも、きっと、団蔵も金吾も成長したらびっくりするほど美人になると思うんだ!
そんな思い込みから始まる話です。
兵団と喜金になるのはこれからと言う事で。 





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