「いたたた・・・・」
数馬はいつものようにどこぞのいたずら者が仕掛けた罠に見事に引っかかっていた
見れば分かるようなトラップにも引っかかってしまうのは、保健委員くらいのものである
罠には必ずスイッチがついており、そのスイッチは誰かがかかったとき保健室にあるブザーを鳴らすものだ(いたずら者の生徒は罠を仕掛けるのを辞める気がない為、仕方なくスイッチを取り付けることになった)
そして保健室には新野先生か、担当の保健委員がいるのですぐに救急箱を抱え罠のある場所へ向かう。というシステムになっている
勿論、今回も罠に反応し保健室ではブザーがなっている
はずであった。
10分、20分、人が来る気配はない
さすがに不思議に思い今回の罠を目を凝らして見てみた。
すると、本来ならばスイッチを押してあるであろう棒が、ぽっきりと折れてしまっていたのであった
立てば手が届くのだが、罠のワイヤーが足に絡まり、おまけにワイヤーに引かれ足が持ち上がってしまっている為、立つことは出来なかった
しかも見る角度によっては下着が見えてしまうほどである
幸い、その場所は人通りが少なくこの失態を見られる可能性は低い旧校舎なのだが、逆に言えば助かる可能性も低いということである
「ほんっとついてない・・・」
必死にスカートを押さえながら呟いた
「ああ、携帯があった!」
と、カバンから携帯を取り出そうとするが、その肝心のカバンがない
上を見ると、罠によってカバンがつるされていた
これでは助けも呼べない
次第に不安になり、視界が霞む
罠にかかってから1時間半は経ったかもしれない。携帯も時計もないからわからないが、日没が近づいているところをみると、もうじき7時になるころだろう
となると生徒はほとんど帰っていて、今頃運動部も片づけを始めているころだろう
だが自分が引っかかった場所は運動部が来る事はない旧校舎の倉庫前
なぜこんなところに罠を仕掛ける必要があるのか。毎度のように思う
「どうしよう・・・ヘムヘムでもいいから誰かぁ・・・」
藤内、左門、三之助、孫兵、普段仲良くしているメンバーの名前を叫んだ
やはり、人が来る気配はない
「ううっ・・・・さくべええええっ!!」
鼻水と涙を流し、掠れる声で最後の一人を呼んだ
校舎に差し込む光が弱まり、旧校舎に闇が訪れようとしている
数馬は怖くて仕方がなかった
「作兵衛・・・・」
そういえば、今日は用具委員会の用事で帰りが遅くなるから先に帰ってくれという会話をしたことを思い出した
と同時に数馬は一心不乱に叫んでいた
何度も何度も「作兵衛、作兵衛」と叫んだ
つるされた足が痛みだしてきたがそんなことどうでもよかった
まだいるかもしれない!その期待を胸にただひたすら叫んだ
声が枯れるほど叫んで、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになった
だが、とうとう日が沈み、旧校舎は真っ暗になってしまった
恐怖心と不安で声が出なくなり、もう諦めて一夜を過ごそうかと考え始めていたときだった
ギシ、ギシと床を歩く音が聞こえた
もう幽霊でもいい、誰か来てくれと空気を大きく吸い込み叫んだ
「誰かあああっ!」
はぁはぁと息を荒くし、足音がした方を見つめた
一度止まった足音が、急に加速しこちらに近づいてくる
期待と恐怖で胸がいっぱいだった
「数馬っ!」
聞こえたのは、自分がよく知る声
一番安心できる、一番大好きな声
そして目の前に現われたのは、数馬が思ったとおりの人物であった
「・・・・作ちゃん!!」
作兵衛は懐中電灯を床に放り投げ数馬に駆け寄り抱きしめた
「怖かったよぉ・・・」
「ごめん、ほんとにごめんな・・・」
作兵衛も目に涙を溜めていた
身体を離し、数馬の下半身を見ると顔を真っ赤にして目をそらした
必死で叫んでいたため、スカートがめくれ上がってしまっている事に気づいていなかったのだ
それに気づいた数馬もバッとスカートを押さえた
「・・・・とにかくごめん!!」
「作ちゃんは悪くないよ、あ・・・あの、とりあえずワイヤーとってもらっていい?痛くて・・・」
「お、おう・・・・待ってろ」
作兵衛は器用にワイヤーをはずし、上につるされているカバンも取った
「ほら、立てるか?」
差し出された手に手を伸ばし、立ち上がると、長時間吊るされていた為おぼつかず、よろけてしまった
「大丈夫か?」
「ごめん・・・フラフラで・・・」
「ん・・・よし」
語尾と同時に作兵衛は数馬を抱えあげた
「ちょ、ちょっと!!なにして・・・」
「お姫様抱っこ」
「それはわかるけどさぁ!あの、えっと・・・ち、近・・・」
二人の顔の距離は15cm、10cmと短くなっていった
あと5cm、のところで数馬は耐えられなくなりもがいて作兵衛の腕から飛び降りた
「きゅ、急にそんなことされたら・・・」
「・・・ごめん」
意を決して試みた行動なだけに、拒否された事がショックだったのであろう。作兵衛はしゅんとして下を向く
すこし申し訳ないことをしたと思ったが、とりあえず旧校舎から離れたかった
「作兵衛、早く出よう」
数馬は懐中電灯を拾い上げ作兵衛の手を引いて歩き出した
靴を履き替え、やっと校外へ出た数馬はふうと息を吐いた
作兵衛は本当にへこんでいるらしく、何を話しかけても生返事しか返ってこない
「もう・・・・作ちゃん」
自転車を押して歩いている作兵衛の隣に寄り、腕を引いた
「・・・ん?」
作兵衛が数馬に顔を向けたと同時に数馬は背伸びをして作兵衛に口付けをした
3秒ほどして離れると、何が起こったのかわかっていない作兵衛がぽかんと口を開けていた
「さっきの分!・・・7cm差って意外と大きいね、一瞬届かないかと思っちゃった」
照れくさくて目を逸らして笑う数馬が愛しくて、作兵衛は顔を真っ赤にしながらも数馬の頬にキスをした
「ありがとな」
といった後、回ってきたペダルに足をぶつけてしまった
つくづく格好のつかない作兵衛がかわいくてたまらない
さっきあんなに怖くて不安だったのに、その気持ちが一気に吹っ飛んでいってしまう
痛がる作兵衛を見てにこりと微笑んだ
「作ちゃん、大好きだよ!」
そういって先に走っていってしまった
今日の自分は素直すぎる、と顔を赤くしながら自分の家へ向った
一人残された作兵衛はさっきまでの事を思い出し、また顔を真っ赤にした
「俺も好きだよ・・・」
走り去る数馬の後姿を見て明日改めて言おうと心に決めた
そしてその翌日、作法委員会室から藤内の怒鳴り声が響いたという・・・。
fin
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この度はご投稿をありがとうございました!
どこまでも罠に引っかかってしまう保健委員会(涙)。
七センチって大きいですよね。背伸びしてしまう距離感大好きです!
コメント:高橋侑
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